【論文トピック2025】LLMは“わかってる”けど“できてない”?

こんにちは!HEARTSHEART Laboの村田です。

近頃、ChatGPT や Claude、Gemini(旧Bard) といった大型言語モデル(LLMs)が “まるで人間” のように文章を書いたり質問に答えたりしてくれる様子を見て、「もう何でもできるのでは?」という印象を持つ人も多いと思います。でも、最新の研究 Comprehension Without Competence は、こういうモデルには「理解している」ようだけど「確実にできる」わけではない、という重要な限界があることを明らかにしています。

Comprehension Without Competence: Architectural Limits of LLMs in Symbolic Computation and Reasoning」という論文および記事のポイントをみて行きましょう。

 

“理解できるけど実行できない”場面

たとえば、「9.9 と 9.11 のどちらが大きいか?」という問いに対して、モデルはきちんと「小数点を揃えて比べる手順」を説明できる。でも、実際にその手順を自分がやる(計算する)ときには間違った答えを出したりします。原理・ルールは説明できる、でもそれを確実に使いこなす “実行力” が欠けているのです。

なぜそうなるのか:モデルの内部で起きていること

この研究では、LLMs の内部構造(アーキテクチャ)に根本的な制約があって、説明と実行で使われる「道」が分かれてしまっている、という説が提示されています。主に3つの理由があります。

  1. 文脈の混ざり合い
     トークン(単語、数字など)の意味づけが、過去の文脈やデータに引きずられたりして、本来の “数学的意味” や “論理的な意味” がぼやけてしまう。例として “9.11” は「数学的な 9.11」でもあり「ソフトウェアのバージョン 9.11」などの文脈でも使われるデータがあるため、その両方の意味が混ざってしまう。

  2. 計算の正確性を保証するのが難しい構造
     LLMs は主に「次の単語を予測する」ために訓練されていて、計算を厳密に正しく行うような手続き・アルゴリズムを内部で構造化しているわけではない。フィードフォワードネットワークなどは、重みだけで「どんな入力でも正しい計算」を保証する設計にはなっていない。

  3. 説明と実行の“ずれ”
     説明文を生成するモードと、実際に手順を踏んで計算や推論をするモードとで、モデルの内部で使われる表現や経路が異なる。説明するのは得意でも、それを “実際にやる” 部分が弱い、ということです。

では、どうするべきか:未来へのヒント

この論文は、今のモデルが持つ限界を指摘するだけでなく、「このギャップを縮めるためにはこういう方向性が必要だ」という提案もしています。

  • モデル自身が「これは説明/命令/手続き用モード」「これは実行モード」とモードを切り替えられるような自己制御(メタ認知)的な仕組み。

  • 説明できる原理を、きちんと計算や推論に使える形でモデルの構造に取り入れること。

  • 記号操作や論理推論などで強みを発揮するような専用モジュールを持つ “ハイブリッドな設計” を考えること。

まとめ

LLMs は言語理解・説明の部分では非常にすごい。しかし「説明できれば実行できる」という前提は崩れてきていて、「理解と実行」の間に橋をかける設計がこれからのモデル改良の鍵だ、というのがこの研究のメッセージです。

よくある質問(FAQ)

モデルがルール・手順・論理などを言語で説明できること。例えば「小数点を揃えて比較する」というアルゴリズムを説明するような能力。

実際にそのアルゴリズムを正しく使って計算や推論を行うこと。説明だけでなく、正答を返したり一貫した推論過程を踏むこと。

特に数学や論理が重要な分野(法務、医療、科学など)で信頼性が求められるとき、説明できるだけでは十分でない。誤った計算や論理的矛盾が致命的になりうる。

論文の著者は「モデルを大きく・データを増やす」だけではこのギャップを埋めるのは難しい、としている。根本的なアーキテクチャ構造の改善やモード切替、専用モジュールなどが必要。

説明と実行を分けて管理できるような設計、あるいは計算や論理推論のモジュールを組み込むハイブリッドな構造が求められる。また、モデルが自身の出力の正しさをチェックするメタ認知機能も重要。

著者

村田正望(むらた まさみ)
工学博士/HEARTSHEART Labo 所長。脳科学とAIを融合した発想力教育・活用支援を行う。研究と実務経験をもとに、ビジネス・生活・子育てに役立つ「脳×AI」の学びを発信中。

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