【論文トピック2025】AIの推論はまだ信じきれない ― 過剰思考とその限界を解説

こんにちは!HEARTSHEART Laboの村田です。

AI、特に ChatGPT のような大きな言語モデル(LLMs)は、問題を解くとき、人間の“思考の道筋”を真似して、ステップごとに答えを導く手順(chain of thought, CoT)を取る場合があります。これを使うことで、より論理的な理由づけや数学問題などで良い答えを出せるようになってきました。

でも「思考の道筋が見えること」イコール「考える力がしっかりしていること」ではない、というのが今回の論文の指摘です。

Large Reasoning Models are not thinking straight: on the unreliability of thinking trajectories」という論文および記事のポイントをみて行きましょう

 

AIは“考えてる”ように見えても…

AI、特に ChatGPT のような大きな言語モデル(LLMs)は、問題を解くとき、人間の“思考の道筋”を真似して、ステップごとに答えを導く手順(chain of thought, CoT)を取る場合があります。これを使うことで、より論理的な理由づけや数学問題などで良い答えを出せるようになってきました。

でも「思考の道筋が見えること」イコール「考える力がしっかりしていること」ではない、というのが今回の論文の指摘です。

論文が明らかにした “過剰思考(overthinking)” の問題

この研究で発見された主な問題は、「モデルが余計なステップを付け加えたり、正しい答えや補正情報を無視して、結果として誤った答えに至ることがある」ということです。具体的には:

  • もしもモデルに“この部分は正しい答え/手がかりですよ”と教えてあげても、それを採用して短く、確実な思考で答えるのではなく、あえて複雑で長いルートを取ってしまうことがある。

  • 時には、その長くなった思考こそが間違いを呼び込んでしまう。

  • ベンチマークでスコアが上がってくるとき、その裏側に“思考のプロセスがどうなってるか”“補正情報が効いているかどうか”という点があまり測られていないこと。

なぜこれが問題か

この過剰思考の問題は、いくつかの点で“AIが実用的に使われる際”に困ることになります:

  1. 効率が悪い
     余分なステップを踏むため、回答するまでに時間や計算リソースが余計にかかる。

  2. 誤りが入りやすい
     複雑な思考を伸ばすほど、“勘違いや論理の取りこぼし”が入り込む可能性が上がる。

  3. ユーザーとの相互作用における信頼性の低下
     「このAIは無駄に迷ってるな」「なんで正しいヒント(手がかり)を無視するの?」という不信感をユーザーが持つかもしれない。

  4. 評価/ベンチマークのバイアス
     これまでのベンチマークでは「最終答えが正しいか」「最終スコア」が重視されがちで、思考の過程の質や補正への応答の良さがあまり見られていなかった。それが性能向上の実態を過大に見せてしまう恐れがある。

なぜそうなってしまうのか(原因の仮説)

論文ではその原因までは完全に解明していませんが、次のような可能性が指摘されています:

  • モデルが「自分が正しい答えを持っている」という補正情報を入れられても、それを“活用するインセンティブ”が訓練段階で十分ついていない場合がある。

  • 強化学習で訓練されているモデルでは、「答えを正しく出す」ことだけが報酬対象となっていて、“思考を簡潔にする”とか“正しいヒントを活かす”ことが報酬に十分含まれていない可能性。

  • “チェイン・オブ・ソート”という思考ステップを長く取ることが、見た目では推論が深いように見せるが、実際には不要な部分が多いこと。

解決の方向性・これから期待されること

この論文を受けて、AIモデルの研究者や応用者が注目すべき方向はは以下のようなものです:

  • モデルの訓練や評価において、「思考経路の質」「補正情報を取り込む能力」「思考を早く止められる能力」などを指標に加える。

  • 過剰思考を避けるための設計(「一定の自信があれば補正ヒントを受け入れて迷わず答える」「反復・検証のステップを減らす」など)。

  • モデルが与えられたヒントや修正を正しく使えるような報酬設計や訓練手法を工夫する。

  • モデル内部の“思考の軌跡(trajectory)”を可視化・分析して、「どういうステップで間違いに導かれるか/どこで余計なステップを踏んでいるか」を理解する。

まとめ

要するに、この論文が教えてくれるのは、「AIが“考えているように見える”チェイン・オブ・ソート(思考の道筋)は必ずしも“正しく考えている”ことを示すものではない、そして評価/応用でもそこを見落とすと問題が起きる」ということです。

ユーザーとしては、AIの出す答えだけでなく“どういう道のりでその答えに至っているか”を多少気にすること、またAIツールを使う企業や研究者には“思考プロセスの信頼性”を重視する設計がより重要だ、ということを覚えておくといいでしょう。

よくある質問(FAQ)

A. 大規模言語モデル(LLM)が“推論(reasoning)”を行うときの「思考の道筋(chain of thought)」が、本当に信頼できるのかを調べた研究です。最新のモデルでも、思考の流れがまっすぐでなく、余計な回り道をしたり、正しい情報を無視したりする問題があることを示しました。

A. モデルが「過剰思考(overthinking)」してしまうことです。

  • 余分なステップを付け足してしまう

  • 正しいヒントや補正情報を無視する

  • その結果、間違った答えにたどり着く

つまり“考えすぎて逆に失敗する”現象が起きます。

A. 数学ベンチマーク AIME2024 を使い、3つの最新モデルをテストしました。モデルに「正しい手がかり」を与えても、それをきちんと活かせず、思考の流れを不必要に長くして間違えるケースが観察されました。

A. 理由は大きく4つです:

  1. 効率が悪い:余計に時間や計算を使う

  2. 誤りやすい:複雑なほどミスが増える

  3. 信頼性の低下:ユーザーが「AIはヒントを無視する」と感じる

  4. 評価の偏り:正解率だけで性能を測ると、実際の思考の質が分からない

A. 訓練方法に原因があると考えられます。多くのモデルは「最終的に正しい答えを出す」ことだけを報酬にして学習しているため、「ヒントを活用する」「短く正確に考える」といった要素は強化されていません。

A. いくつかの方向性が考えられます:

  • 評価指標に「思考経路の質」や「補正を取り込む力」を加える

  • 不必要に長い思考を避けるよう訓練する

  • モデル内部の思考の流れを可視化・分析する

A. AIの答えをそのまま信じるのではなく、「どういう経路で答えにたどり着いたか」 を気にするとよいでしょう。また、ヒントを与えても必ず反映されるとは限らないと知っておくと安心です。

著者

村田正望(むらた まさみ)
工学博士/HEARTSHEART Labo 所長。脳科学とAIを融合した発想力教育・活用支援を行う。研究と実務経験をもとに、ビジネス・生活・子育てに役立つ「脳×AI」の学びを発信中。

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