【論文トピック2025】AIの“思考”にも秘密はない? — 新研究が警告する、AIの内部で起きているプライバシー漏洩

こんにちは!HEARTSHEART Laboの村田です。

みなさん、AIアシスタントに「名前教えて」「健康情報入力して」などとお願いしたこと、ありますか?
AIはこうした依頼を聞いて、ただ答えを返すだけではなく、内部で“思考の道筋(reasoning trace)”をたどることがあります。まるで、私たちが文章を書くとき、まず頭の中でアイデアを練るようなものです。

最近発表された研究 Leaky Thoughts: Large Reasoning Models Are Not Private Thinkers は、この“思考の道筋”が実は安全とは言えないことを明らかにしています。なぜなら、この思考の過程に、ユーザーの機密情報が含まれていたり、悪意あるプロンプト(命令文のようなもの)を混ぜると、その思考が外部に漏れてしまうことがあるからです。

AIの“思考”をのぞく危うさ

たとえば、AIに「あなたの思考を見せてください」や「ステップ・バイ・ステップでどう考えたか教えて」という命令を与えると、AIが普段は隠している思考の過程をそのまま出してしまうことがあります。しかも、推論ステップをたくさん踏ませて“深く考えさせる”ようにすると、最終的な答えはより慎重になるものの、思考の道筋が冗長になり、それだけ漏れやすい部分が増えるというのがこの研究の結果です。

「安心」の基準が変わる

この発見が意味することは、AIを使う際の「安心」の基準がこれまでとは違ってきている、ということです。「出てくる答えが安全かどうか」だけでなく、「その答えを出すまでの“思考”や“内部処理”も安全かどうか」が、今後きっと重要になってきます。

なぜこれが大事か

  • AIアシスタントやチャットAIを日常で使うとき、私たちは「出てくる答え」に注目しがちだけど、AIが答えを出すまでにどんな情報を引っ張ってきたか、それが影響を受けるかもしれない。

  • プライバシー被害は、悪意ある第三者の攻撃だけでなく、AI自身の設計や内部の“思考”のあり方からも起こりうる。

  • 開発者にもユーザーにも、「思考過程(trace)」を可視化・制御する仕組みが必要。ユーザーが見えない部分にも注意が払われていないと、知らず知らずに個人情報が漏れる可能性がある。

まとめ

今回の研究からわかることは、「AIの答え」だけでなく「AIの考え方そのもの」にも注意を払う必要がある、という点です。
私たちは普段、AIを“便利な相談相手”として使いますが、その裏でAIがどのように情報を処理しているかまでは気にしません。ところが、この“裏側の思考”に個人情報や機密データが含まれると、それが意図せず漏洩につながるリスクがあるのです。

AIを安全に使うためには、開発者はもちろん、ユーザー自身も「どこまでAIに情報を渡すか」「どんな設定で利用するか」を意識することが大切になります。これからは“便利さ”と同じくらい“安心”をどう確保するかが問われる時代になってきたのだと、この研究は警告しています。

よくある質問(FAQ)

AIモデルが最終的な答えを出す前に“どう考えているかの道筋”を示す内部のステップや考慮事項のことです。どのように情報を取り扱ったか、どの仮定を使ったか、どの選択肢を検討したかなどが含まれます。

その思考の中でユーザーの個人情報(名前、住所など)を取り込んだり、参照したりすることがあり、それが意図せず外に出たり、悪意ある命令で引き出されたりする可能性があるからです。

モデルが答えを返す際に「思考ステップを複数踏ませる」「計算リソースを多く使う」ことを指す言葉です。たくさん“考える”ほど答えが良くなることもあるけれど、同時に思考過程での情報漏れリスクも高まるということがこの研究で示されました。

以下のような対策が考えられます:

  • 推論トレースを最小限にする(必要以上に“深く思考”させない)
  • 匿名化/プレースホルダーを使って機密情報を直接参照させない設計
  • プロンプトインジェクション(悪意あるプロンプト)対策を入れる
  • モデル内部の思考過程をモニタリング/監査できる仕組みを持つ
  • 利用者にも危険性を知らせ、設定可能なプライバシーオプションを提供する

はい。使っているAIやアプリのプライバシー設定を確認する、「思考の見える化」や「履歴を残さない」などのオプションがあれば使う、入力する情報を最小限にする、自分の名前や住所などが不用意に入力されないよう注意するなどです。

著者

村田正望(むらた まさみ)
工学博士/HEARTSHEART Labo 所長。脳科学とAIを融合した発想力教育・活用支援を行う。研究と実務経験をもとに、ビジネス・生活・子育てに役立つ「脳×AI」の学びを発信中。

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