
こんにちは!HEARTSHEART Laboの村田です。
AIはとても賢くなってきましたが、まだ人間のように「この問題は簡単だからすぐ答えよう」「これは難しいからじっくり考えよう」といった“考えるかどうかの切り替え”は得意ではありません。
たとえば、AIに「1+1は?」と聞いても、わざわざ長々と推論のステップを書いてから「2」と答えることがあります。これは正しいけれど、無駄が多いですよね。逆に、難しい問題に対して十分に考えずに答えてしまうと、精度が落ちてしまいます。
今回紹介する研究は、この「いつAIに考えさせるか」を自動でコントロールできるようにする仕組みです。研究者たちは 「AutoThink」 という新しい手法を開発しました。
「…」でAIの思考が切り替わる?
面白い発見があります。AIに与える指示の中で、ただ「…(省略記号)」を入れるだけで、AIが「考えるモード」と「すぐ答えるモード」を切り替えられることが分かりました。
これは人間にとっては何気ない記号ですが、AIにとっては「考えるか考えないか」のスイッチになっていたのです。
強化学習で“使い分け”を学習
でも、単に切り替えができるだけでは不十分です。大事なのは「簡単なときは考えない」「難しいときはちゃんと考える」というバランス。
そこで研究者は、強化学習という仕組みを使ってAIに次のことを学ばせました。
両方のモード(考える/考えない)をバランスよく使うこと
それぞれのモードで正確に答えられるようにすること
考える場合でも無駄な長考をしないこと
これらを順番に学習させることで、AIが自然に「ここは考えたほうがいいな」と判断できるようになったのです。(詳細はFAQ 又は 論文)
結果は?
数学の問題集を使った実験では、AutoThinkを使ったAIは、
正答率が 6%以上向上
推論に必要な文章量(トークン)が 半分以下に削減
という成果を出しました。つまり「無駄を減らして、正確さもアップ」したのです。
まとめ
この研究のポイントは、AIが「考えるかどうか」を自動で調整できるようになったことです。
人間が「ちょっと考えれば答えられる」「これはじっくり考えるべき」と切り替えるのと同じように、AIも状況に応じてモードを選べるようになる。
これが実現すれば、
応答が速くなる
サーバーや電気代のコストを節約できる
小型デバイスでも賢いAIが動かせる
といったメリットが期待できます。
AIが「いつ考えるべきか」を理解する日――それは、人間のように柔軟な知性へ近づく一歩かもしれません。
よくある質問(FAQ)
A. AIが「考える」というのは、人間のように本当に頭で考えるわけではありません。ここで言う「考える」とは、答えを出す前に「ステップを順番に並べて推論すること」を指します。たとえば、数式を一つずつ解いていくように、AIも途中経過を書きながら答えを導くのです。
A. 簡単な問題でもわざわざ長々と推論すると、時間がかかり、サーバーや電気代のコストも増えます。人間でいう「一問一問を全部論文にまとめる」ようなイメージです。必要ないときはシンプルに答えてくれた方が便利ですね。
A. AutoThinkは、AIに「いつ考えるべきか、いつすぐ答えていいか」を自分で判断させるための仕組みです。難しい問題ではじっくり考え、簡単な問題はスパッと答えるようにAIを訓練します。
AutoThinkのプロセス(4ステップ)
① 問題を読む
モデルはまず質問や問題文を受け取ります。
このとき「簡単そう?それとも難しそう?」という直感的な評価を内部で行います。
② 「思考モード」か「即答モード」かを選ぶ
思考モード → 問題を分解し、ステップごとの推論を展開してから答える。
即答モード → 手順を省略して、すぐに答えを書く。
この切り替えは、プロンプト内の「…(ellipsis)」という合図と、強化学習で学んだルールによって制御されます。
③ 思考の深さを調整
難しい問題なら、途中式や根拠をたくさん書いて精度を高める。
簡単な問題なら、なるべく短くまとめて答える。
つまり「どのくらい考えるか」まで自動でコントロールします。
④ 答えを出す
最終的に <answer> の部分で答えを提示。
場合によっては「短い答え」だけ、または「しっかり考えた後の答え」が出てきます。
A. 研究者は「強化学習」という方法を使いました。これは、AIが良い答えを出したときにご褒美を与えるような仕組みです。「考えすぎないで正しく答えたらプラス点」「考えて答えが当たったらさらにプラス点」というふうに調整していきます。
A. はい!数学の問題を解かせた実験で、答えの正確さはアップし、余分な長い推論は半分以下に減りました。つまり「賢さ」と「効率」の両方を改善できたのです。
A. 将来のAIアシスタントが、質問の内容によって「すぐ答える」か「じっくり考える」かを自動で切り替えられるようになります。これにより、レスポンスが速くなったり、スマホや家庭用デバイスでも快適にAIが使えたりするようになるでしょう。
A. そうです。私たちも「今日は天気どう?」と聞かれたらすぐ答えるし、「来年の旅行プランを立てよう」と言われたらじっくり考えますよね。AIも同じように切り替えられるようになってきている、というのがこの研究の面白いところです。
著者

村田正望(むらた まさみ)
工学博士/HEARTSHEART Labo 所長。脳科学とAIを融合した発想力教育・活用支援を行う。研究と実務経験をもとに、ビジネス・生活・子育てに役立つ「脳×AI」の学びを発信中。
HEARTSHEART Laboの活動
HEARTSHEART Laboでは、さまざまな立場の方を対象にした研修・プログラムを提供しています。
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