【論文トピック2025】AIはいつ“考える”べき?──無駄なく賢くなる新しい仕組み

こんにちは!HEARTSHEART Laboの村田です。

AIはとても賢くなってきましたが、まだ人間のように「この問題は簡単だからすぐ答えよう」「これは難しいからじっくり考えよう」といった“考えるかどうかの切り替え”は得意ではありません。

たとえば、AIに「1+1は?」と聞いても、わざわざ長々と推論のステップを書いてから「2」と答えることがあります。これは正しいけれど、無駄が多いですよね。逆に、難しい問題に対して十分に考えずに答えてしまうと、精度が落ちてしまいます。

 

今回紹介する研究は、この「いつAIに考えさせるか」を自動でコントロールできるようにする仕組みです。研究者たちは 「AutoThink」 という新しい手法を開発しました。

論文「Learning When to Think

「…」でAIの思考が切り替わる?

面白い発見があります。AIに与える指示の中で、ただ「…(省略記号)」を入れるだけで、AIが「考えるモード」と「すぐ答えるモード」を切り替えられることが分かりました。
これは人間にとっては何気ない記号ですが、AIにとっては「考えるか考えないか」のスイッチになっていたのです。

強化学習で“使い分け”を学習

でも、単に切り替えができるだけでは不十分です。大事なのは「簡単なときは考えない」「難しいときはちゃんと考える」というバランス。

そこで研究者は、強化学習という仕組みを使ってAIに次のことを学ばせました。

  • 両方のモード(考える/考えない)をバランスよく使うこと

  • それぞれのモードで正確に答えられるようにすること

  • 考える場合でも無駄な長考をしないこと

これらを順番に学習させることで、AIが自然に「ここは考えたほうがいいな」と判断できるようになったのです。(詳細はFAQ 又は 論文)

結果は?

数学の問題集を使った実験では、AutoThinkを使ったAIは、

  • 正答率が 6%以上向上

  • 推論に必要な文章量(トークン)が 半分以下に削減

という成果を出しました。つまり「無駄を減らして、正確さもアップ」したのです。

まとめ

この研究のポイントは、AIが「考えるかどうか」を自動で調整できるようになったことです。
人間が「ちょっと考えれば答えられる」「これはじっくり考えるべき」と切り替えるのと同じように、AIも状況に応じてモードを選べるようになる。

これが実現すれば、

  • 応答が速くなる

  • サーバーや電気代のコストを節約できる

  • 小型デバイスでも賢いAIが動かせる

といったメリットが期待できます。

AIが「いつ考えるべきか」を理解する日――それは、人間のように柔軟な知性へ近づく一歩かもしれません。

よくある質問(FAQ)

A. AIが「考える」というのは、人間のように本当に頭で考えるわけではありません。ここで言う「考える」とは、答えを出す前に「ステップを順番に並べて推論すること」を指します。たとえば、数式を一つずつ解いていくように、AIも途中経過を書きながら答えを導くのです。

A. 簡単な問題でもわざわざ長々と推論すると、時間がかかり、サーバーや電気代のコストも増えます。人間でいう「一問一問を全部論文にまとめる」ようなイメージです。必要ないときはシンプルに答えてくれた方が便利ですね。

A. AutoThinkは、AIに「いつ考えるべきか、いつすぐ答えていいか」を自分で判断させるための仕組みです。難しい問題ではじっくり考え、簡単な問題はスパッと答えるようにAIを訓練します。

AutoThinkのプロセス(4ステップ)
① 問題を読む
モデルはまず質問や問題文を受け取ります。
このとき「簡単そう?それとも難しそう?」という直感的な評価を内部で行います。

② 「思考モード」か「即答モード」かを選ぶ
思考モード → 問題を分解し、ステップごとの推論を展開してから答える。
即答モード → 手順を省略して、すぐに答えを書く。

この切り替えは、プロンプト内の「…(ellipsis)」という合図と、強化学習で学んだルールによって制御されます。

③ 思考の深さを調整
難しい問題なら、途中式や根拠をたくさん書いて精度を高める。
簡単な問題なら、なるべく短くまとめて答える。

つまり「どのくらい考えるか」まで自動でコントロールします。

④ 答えを出す
最終的に <answer> の部分で答えを提示。
場合によっては「短い答え」だけ、または「しっかり考えた後の答え」が出てきます。

A. 研究者は「強化学習」という方法を使いました。これは、AIが良い答えを出したときにご褒美を与えるような仕組みです。「考えすぎないで正しく答えたらプラス点」「考えて答えが当たったらさらにプラス点」というふうに調整していきます。

A. はい!数学の問題を解かせた実験で、答えの正確さはアップし、余分な長い推論は半分以下に減りました。つまり「賢さ」と「効率」の両方を改善できたのです。

A. 将来のAIアシスタントが、質問の内容によって「すぐ答える」か「じっくり考える」かを自動で切り替えられるようになります。これにより、レスポンスが速くなったり、スマホや家庭用デバイスでも快適にAIが使えたりするようになるでしょう。

A. そうです。私たちも「今日は天気どう?」と聞かれたらすぐ答えるし、「来年の旅行プランを立てよう」と言われたらじっくり考えますよね。AIも同じように切り替えられるようになってきている、というのがこの研究の面白いところです。

著者

村田正望(むらた まさみ)
工学博士/HEARTSHEART Labo 所長。脳科学とAIを融合した発想力教育・活用支援を行う。研究と実務経験をもとに、ビジネス・生活・子育てに役立つ「脳×AI」の学びを発信中。

HEARTSHEART Laboの活動

HEARTSHEART Laboでは、さまざまな立場の方を対象にした研修・プログラムを提供しています。

  • 企業・ビジネス向け:「脳×AI」でAIを「第二の脳」とする発想力・企画力講座
  • 教師・教育関係者向け:「脳×AI」で授業改善や教材づくりにAIを活用する実践研修
  • 個人向け(子育てパパママ):「脳×AI」で子育てや家庭学習に役立つオンライン講座
  • 個人向け(社会人・高校・大学生):「脳×AI」でAIを「第二の脳」とするオンライン講座

「ビジネス」「個人」それぞれの場で、脳とAIをつなぐ実践をサポートしています。

関連するコンテンツ

上部へスクロール