【論文トピック2025】AIが“思考モード”を使い分ける時代へ:OThink-R1で無駄な思考をカット

こんにちは!HEARTSHEART Laboの村田です。

私たちが普段「考える」とき、人によっては直感で答えることもあれば、じっくり論理を積み重ねて答えることもあります。AIの世界でも、その“速い思考/遅い思考(fast thinking / slow thinking)”を使い分ける仕組みが研究されはじめています。今回ご紹介するのは「OThink-R1」という新しい技術です。

論文「OThink-R1: Intrinsic Fast/Slow Thinking Mode Switching

そもそも“過剰な思考”って何?

例えば「2 + 2 = ?」という問題。大人なら直感で「4」と答えを出しますよね。AIモデルも、複雑な論理的ステップを使わずともこのような簡単な問題は答えられることが多いです。しかし、最新の“推論モデル(reasoning models)”は、このような単純な問題に対してもあえて長い思考過程(Chain-of-Thought:考えを言葉で順を追って説明する)を生成しようとすることがあります。これにはトークン数がたくさん必要になり、処理の時間やコストが増します。

OThink-R1 がやること

この研究では以下のような改善を提案しています:

  1. どの思考が“無駄”かを見分ける
     AIの思考プロセスを分析し、「これ以上考える必要がない」「もう十分答えが見えている」ようなステップ(冗長な思考)と、「問題に深く関わる重要なポイントを押さえるための思考」(本質的な思考)とを区別します。

  2. モードを切り替える
     問題が単純なとき → fast thinking モード(思考ステップを省略して素早く答える)
     問題が複雑なとき → slow thinking モード(詳しくステップを追って答える)

  3. 学習させる方法
     AIにこの切り替えを学ばせるために、過去の答えのデータを加工します。簡単な問題で長い思考ステップが含まれていた回答は、そのステップを取り除いて“速い答え”として学習させ、本当に複雑な場面では“丁寧に考える”パターンを残します。さらに、fast/slow 両方のモードをうまく使えるように「損失関数」に工夫を入れることでバランスをとっています。

結果はどうか?

  • モデルが無駄な思考をする割合を約 23% 減らすことができました。
  • しかも精度(答えの正確さ)は落ちず、問題によっては上がることも。
  • 使われるモード(速い vs 遅い)が状況によってちゃんと切り替わるようになった。

なぜこれが大事か?

  • AIの応答が速くなる → ユーザーの待ち時間が減る

  • サーバーの負荷やコストが減る

  • 無駄を省けば、リソースを他のタスクに回せる

  • モデルが“怠けずに考えるべきときは考える”ように設計できる → より賢くなる

まとめ

OThink-R1 は、大規模言語モデルが抱える「過剰に考えすぎる」問題に対して、“速い思考”と“遅い思考”を自動で切り替える仕組みを導入した研究です。

  • 単純な問題 → 無駄な推論を省き、直感的に答える「fast thinking」モード
  • 複雑な問題 → 論理的ステップを丁寧に積み重ねる「slow thinking」モード

この切替をうまく学習させることで、冗長な思考を約 23% 削減しつつ、精度を落とさない(場合によっては向上する)という結果を示しました。

つまり OThink-R1 は、AIに「考えるべきときは考え、そうでないときは即答する」という人間的な知恵を与え、効率と正確さを両立させる一歩といえます。

よくある質問(FAQ)

いいえ。単純な問題に対しては速答モードを使いますが、複雑な問題や論理的な検討が必要な場面ではゆっくり思考モードを選びます。速さだけを追うわけではなく、適切な思考の深さを判断する設計になっています。

実験では精度の低下はほとんどなく、むしろ一部のタスクでは向上も見られています。モデルが答えを出すのに十分な情報がある問題では、速い思考モードでも正答できるからです。

“LLM-Judge”と呼ばれる別のモデルが、過去の例やパターンをもとに思考の軌跡(ステップ)を分析して分類します。どのステップが無駄で、どれが必要か、という基準がいくつか設けられています(例:キーワード特定、誤解防止、前提省略回避 等)。

「テスト・タイム・コンピュート(Test-Time Compute, TTC)」とは、モデルが“実際に使われる時”(テスト時)にどれだけ計算資源を使うか、どれだけ複雑な推論ステップを展開するかということ。

ネットワーク遅延や応答速度が重要なチャットAI、スマホ・エッジデバイスなど制限されたリソース上で動くシステム、大量の問い合わせをさばく必要がある業務用AIなど。「速く済む問題」は速く答えて、複雑な問題には時間をかけることで効率と質の両立を図りたい場面です。

著者

村田正望(むらた まさみ)
工学博士/HEARTSHEART Labo 所長。脳科学とAIを融合した発想力教育・活用支援を行う。研究と実務経験をもとに、ビジネス・生活・子育てに役立つ「脳×AI」の学びを発信中。

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  • 個人向け(社会人・高校・大学生):「脳×AI」でAIを「第二の脳」とするオンライン講座

「ビジネス」「個人」それぞれの場で、脳とAIをつなぐ実践をサポートしています。

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